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私は総合商社で金属資源ビジネスに携わっています。入社後数年間リチウムイオン電池(パソコンや携帯電話に使用される電池)材料の輸入に携わり、その後オーストラリアに駐在、駐在中は現地投資先のアルミ製錬所の投資管理を行う共に資源の本場である現地の大学院で資源工学の修士を取得し、オーストラリアの石炭鉱山で技術者として派遣された後に日本に帰国、新規銅鉱山投資の経済性計算を担当し、現在はチリにて投資先銅鉱山の管理業務に携わっております。

今回は活躍している(?)アジア科OBからのメッセージということですが、学生時代の私は運動会漕艇部に所属し、ほぼ1年中合宿所生活を送っており、学業成績は常に棺桶に片足突っ込んでいる状態でしたので、今回このようなことを執筆する機会を頂いたことに大変恐縮しております。そもそも私がアジア科を選んだのは、明確な目的意識があったわけではなく、漠然と海外に憧れがあったからであり、周りの(特に文化Ⅲ類出身の)同級生の学問に打ち込む姿勢をみていると、どう考えても私は学問の世界では生きていけないと思っていましたので、必然的に残された道は就職しかなく、そんな状況でしたから、最低限の単位だけを取得してとりあえず卒業だけはしようという気持ちで大学生活を送っていました。

さて、「アジア科の学生生活で何を得られるのか?」ということを、大学卒業後に世の中で生き抜いていく為に何が必要かという観点と絡めてお話したいと思います(社会人11年目の私がこのような事を申し上げるのも僭越かと思いますが(笑))。私が思うにそれは「考える力」と「コミュニケーション力」の2つの力です。

1. 考える力
例えばあなたが「水を飲みたい」と思っている時に、その理由を問われれば「喉が渇いたから」と答えると思います。ビジネスの世界(そしておそらく学問の世界でも)問われるのは「喉が渇いたから水が飲みたい」という結論ではなく、どうしてそのような結論に至ったのかという思考のプロセスです。この例ですと、「なぜ喉が渇いたのか?暑いからか?昨日飲み過ぎたからか?」、「どうしてジュースやお茶ではなく水なのか?」というように、「喉が乾いたから水が飲みたい」という結論に至るまでに他の選択肢と比較検討する思考のプロセスが重要になるということです。ビジネスの世界の例ですと、1つの案件の投資決定を行うに当たっては、「なぜこの案件に投資すべきなのか?」ということについて自分なりの結論を示さなければなりません。この場合は「そもそも他にもっと魅力的な案件はなかったのか?」、「他の類似案件と比較して何が優れているのか?」、「採算性は問題ないのか?その根據は?」といったことを考え抜き、周囲を納得させなければなりません。
アジア科の講義はほとんどが少人数形式であることから、必然的にディスカッションや発表形式の授業が多く、卒業論文も必修である為、このような考える力を鍛錬する機会がとても多く設けられていると思います。

2. コミュニケーション力
ビジネスの世界でも学問の世界でも、自分の考えを伝えられなければ何も始まりません。また、プロジェクトが大きくなればなるほど、自分がやりたいことは一人ではできず、自分のやりたいことに共感してもらい、協力してもらう必要がでてきます。自分がやりたいことを実現する為に他者にどのように働きかけるべきか、ということが重要になるわけです。
また、語学についてはできた方が良いことは間違いないのですが、私のこれまでの海外でのプロジェクトの経験上、人の気持を動かすのは必ずしも語学によらない部分も多く、自分の熱意であったり、その人に対する敬意の示し方であったり、何がその人を動かく肝なのかはケースバイケースですので、臨機応変に対応していく必要があります。(余談ですがビジネスの現場では、英語はできて当たり前でプラスもう1ヶ国語ある程度できるということがスタンダードになりつつあると感じます。)
アジア科は小規模の為、教授、先輩、後輩との交流が多く、またAIKOMの留学生も大勢いますので、様々なバックグラウンドの人々に対しどのようにアプローチするか、訓練をする機会がたくさんあります。また、アジア科には沢山の語学プログラムが用意されていますので、やる気さえあれば外国語の修得はいくらでも可能な環境が整っていると思います。

一方で、アジア科のデメリットとしては、会計・財務・法務といったビジネスに直結する科目の履修がし難いということが上げられますが、こちらについては卒業後に挽回が可能です。私はビジネスに関する科目を大学時代に勉強しておりませんでしたが、今では投資国の税制、法政を調べ最適な投資形態を選択すると共に、採算評価モデルを作成するといった事も行っています。(就職活動の時にインターン先の金融機関で「バランスシートって何ですか?」と聞いたら失笑を買ったのは今となっては良い思い出ですが、当時の私は本当に何も知りませんでした。)また、勢いで取得した修士は工学分野です。このように知識はやる気さえあれば増やしていくことは案外簡単ですが、考える力とコミュニケーション力は時間をかけて訓練と経験を積まなければ伸ばせません。これを伸ばすことができるのがアジア科だと思います。私個人の考えですが、大学時代に知識の詰め込みに専念するよりは考える力とコミュニケーション力を伸ばした方が、どのような環境に置かれても対応できますので、後々役に立つと思います。

どの学部・学科を選択しようが、その環境の中でチャンスを活かすか否かは自分次第です。如何に機会に恵まれていても、積極的にそれを活かせるか否かは自分次第です。やる気次第でいくらでも自分を成長させる機会が沢山あることが、アジア科の良いところだと思います。

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